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ISHIN No.113

口の健康が寿命を延ばす。
医科歯科「連携」を語る。

全身の健康を保つ入り口として、歯科医療の重要性が高まっている。とくに予防歯科は、医療費の抑制や健康寿命の延伸につながるとも期待される。参議院議員の山田宏氏と石川県歯科医師会の飯利邦洋会長が歯科医療と医療との連携などについて語り合った。

山田 宏/飯利 邦洋

INDEX

    なぜ今、歯科医療なのか?

     自民党・比例代表選出の参議院議員・山田宏氏と、日本歯科医師連盟は、組織代表と支持団体という強固な関係にある。山田議員が、国政の舞台で訴えるのが「歯科医療の充実こそが医療費の削減につながる」という政策提言だ。歯科医師ではなく、歯科医療の専門家でもない山田議員が今、なぜ国会で「歯科医療の充実こそ国家的課題」と主張するのか? 

    山田 私が歯科医療を重視するようになった原点は、1999年から務めた東京都杉並区長時代にあります。当時、杉並区歯科医師会の高橋英登会長(現日本歯科医師会会長)から「口腔の健康が全身の健康につながる」というデータを示され、成人歯科健診の受診率向上施策などを区政で推進し、その重要性を強く実感したことが発端です。

     杉並区長になった時、区の財政は悪化の一途でした。行政改革はじめいろんなことに取り組みましたが、一番目についたのは国民健康保険組合の財政赤字です。高齢化が進み、医療費はそれにつれて上がっていきました。赤字を減らし、財政再建を図るにはどうしたらいいか。その一つが、区民の健康増進でした。疾病予防に力を入れて、病気になる人が減れば、財政赤字はそれほど大きくはならないと考え、健康政策、疾病予防に力を入れます。

     提示された資料で目に止まったのは、ある県の国保連合会が毎年実施している調査結果です。年1回歯科健診をしている人の医療費が、していない人と比べて年間10万円以上下がるというデータでした。そこからいろいろ勉強をして、口腔疾患が全身の健康につながっていることを学びます。

     歯科医師資格のある職員を3名、衛生士を2名区で雇用し、歯科医療や歯科健診に力を入れました。それまで10年に一度歯周病健診を行っていたのですが、受診率はせいぜい5・6%。そこで受診率をもっと上げようと予算を投入し、歯周病だけではなく歯垢を取るなどのクリーニングを呼びかけたのです。結果、受診率は15%を超え、全国トップクラスにまで上がります。

     さらに、区内にある48の小学校から5つの小学校をモデル的に選出し、学校歯科医によるブラッシング指導を行いました。想定はしていなかったのですが、翌年のインフルエンザの流行期に、学級閉鎖率が例年に比べてぐっと下がったのです。ブラッシング指導をしなかった学校の学級閉鎖率79・6%に対し、5つの小学校の学級閉鎖率は45%。口腔ケアは感染症予防につながることがよくわかりました。その結果、歯科健診や歯科医療の充実が医療費の削減につながることを確信し、国会活動などで訴えるようになったのです。

    全身の健康を守る口腔ケア

     歯科予防が、病気になりにくい体づくりに通ずることは近年、医学界でも重要視されている。歯周病と糖尿病や誤嚥性肺炎、新型コロナやインフルエンザなどの感染症との関係はよく知られるところだが、歯周病菌や口の中の慢性炎症が血流に乗って全身に広がると、心筋梗塞や狭心症、脳血管障害、認知症など重篤な疾患につながることも報告されている。口腔内をクリーンに保つことは、体全体の健康維持に欠かせない要素になっているのだ。

    飯利 口腔ケアと感染症との関係は、高齢化の進展と共にますます身近になっていると感じます。私たちは2024年1月の能登半島地震を経験しました。今年も7月28日に熊本地震がありましたが、災害で怖いのは直接的な被害はもちろんですが、避難所などに避難された高齢者の方々の災害関連死です。

     能登の震災時、私たち石川県歯科医師会は、石川県知事の要請を受けて1月7日にJDAT(日本災害歯科支援チーム)として被災地に入りました。避難所を回ってまず感じたのは、着のみ着のままで避難された方が多く、義歯(入れ歯)を置き忘れ、水や電気、トイレが使えない中で、歯磨きさえ満足にできていない状態でした。食料はありますが、炭水化物系が中心で口の中は糖分が多く、それでなくても細菌が発生しやすい状況にありました。

     私たちは口腔ケアの用品を持参して一人ひとりの口腔ケアにあたりましたが、ペットボトルはあっても水が絶対的に足りないですし、歯磨きをしても下水に流すことができません。液体歯磨きやマウスウォッシュを使ってブラッシングをし、紙コップの中に吐き出しティッシュペーパーを入れて可燃ゴミとして捨てる。そういう工夫をして口腔ケアを行いました。家で普通にできたことが避難所でなかなかできないと、災害関連死の一番の要因とされる誤嚥性肺炎を起こしやすくなります。

     能登半島地震では、珠洲市内にあった歯科医院5軒が被災して、全壊した医院もあって、震災後3ヵ月間歯科診療ができない状態でした。その時に、歯科の巡回診療車を持っていた福井県の協力を得て、珠洲市「道の駅すずなり」に配備することができたのです。3ヵ月で1000人近い人が訪れました。その経験もあって、石川県にはそれまで歯科の巡回診療車はなかったのですが、2026年4月に県の補助もあって配備されました。今回の令和8年熊本地震では、JDATの要請を受け、石川県から歯科の巡回診療車を被災地に配備することができたのは良かったと思います。

    高市政権で攻めの予防医療

    飯利 歯科の治療は、かつての虫歯治療から予防歯科が主流です。日常の歯磨き等セルフケアと、かかりつけの歯科医院でのプロフェッショナルケア等メンテナンスを続けていただきたいと思います。また「8020(ハチマルニイマル)運動」というキャチフレーズでもご存じかもしれませんが、80歳で自分の歯を20本残そうという運動で、あらゆる種類の食物を自分の歯で食べられる歯の数でもあります。平成元年に始まった事業で、当時80歳で20本歯が残っている人は数パーセント、1桁でした。それが今は63%です。6割以上の人が、80歳になっても自分の歯で物を噛んで食べられているわけです。

     子供のときから、両親が一生懸命躾けて小学校、中学校を経て、大人になっても歯のクリーニングをしっかり習慣づけて、プラーク(歯垢)や細菌を口腔内に作らないようにする。口腔内の細菌が悪さをすると歯周病になり、歯周病菌が誤嚥性肺炎の発症に関連し、血管内に入ると心内膜炎等心疾患、糖尿病がある人は悪化につながります。歯周病と認知症との因果関係も指摘されています。

     逆に口の中をクリーンに保つ、虫歯や歯周病を予防することによって心疾患や糖尿病、慢性の病気、肺炎、認知症、感染症なども防げる。国の医療費を考えた場合、山田先生がおっしゃるように、圧倒的に口の中の健康を保つことが重要だと思います。

    山田 国の口腔の健康に対する認識は、当初は厚生労働省の中でも一部局でしかなかったと思います。国の重点政策である骨太の方針に「口腔の健康が全身の健康に直結している」と明記されたのは、2017年です。それから9年余り、今では国民皆歯科健診に向けて取り組んでいるのをはじめ、「8020運動」についても、大きな成果につながっていると思います。

     具体的な成果として、高市総理が総裁選の時に「攻めの予防医療」に国の予算を出すべきだとおっしゃって、これが衆議院選の公約にもなりました。攻めの予防医療とは、具体的に二つあります。一つは、がん健診での陽性者の精密検査をしっかり行って早期発見、早期治療につなげる。もう一つは、国民皆歯科健診の実現で、先ほどお伝えした口腔の健康です。

     歯科医療を通じて国民の全身の健康を維持し、健康寿命を伸ばし、国民皆保険制度を維持する。そして働きたい人がいつまでも働ける環境をつくることが、日本経済にもプラスになると。その切り札として国民皆歯科健診、口腔の健康維持が大きな柱になってきたといえます。

    歯科連携で医療が変わる

    飯利 骨太の方針に明記された当初は、まだ小さな扱いでした(笑)。ですが年々ボリュームアップして、山田先生をはじめとする国民歯科問題議員連盟の皆様のご尽力もあって、国の予算に歯科の課題が反映されつつあるのは大きな成果だと認識しています。歯科医療の予算も倍々で増えてきております。巡回診療車配備にしてもそうですが、災害に強い歯科医療体制が整っているからこそどこで災害が起きても、過疎地であっても、しっかりバックアップできる体制を整えることが重要だと思っています。

    山田 私が2016年に参議院議員になったとき、当時の歯科関係の予算は4億円でした。それが現在は70億円です。骨太の方針に入ると予算化されるので、ここ9年余りで17〜18倍の伸びになっています。その中には、今おっしゃった歯科診療車への災害対応はじめ、全国的な歯科医師不足や、過疎地の歯科医療をどうするかなどの対策費も含まれています。遠隔医療も可能になってきておりますが、本当に必要な医療は何かということをしっかり把握して、今後必要な医療を届けるために何をしていくかが重要だと思います。

     歯科医療の重要性の高まりとともに、クローズアップされるのが医療との「連携」だ。在宅医療や訪問診療、福祉施設などで歯科医との連携は進みつつあるものの、医療全体からみるとまだ「歯科は医療の一部」でしかない。今後、医療との連携はどう進んでいくのだろうか?

    山田 医科歯科の連携は、進んでいくと思います。口腔の健康は全身の健康とかかわっていることは、たとえば糖尿病学会や心臓病でも因果関係が明らかになっていますし、脳卒中の入院患者さんに口腔ケアや歯科医療をきちんとやると入院日数が半分ぐらいになったとか、病院の稼働率が上がって経営に寄与していることもわかってきた。病院経営者の中には、歯科医療が必要だという人も増えてきています。歯周病と認知症の話がありましたが、歯周病とアルツハイマー病が関係しているのではないか、皮膚科の疾患で口腔内に問題があるのではないかといった研究も進んでいると聞きます。それぞれの疾患分野で、学会や研究者が、歯科が関連していることがわかれば医療はどんどん変わっていくと思います。

    生きることは食べること

    飯利 私は、臨床の歯科開業医ですから、地元の医科開業医の皆さんや病院の先生方とのお付き合い、フェイス・ツー・フェイスの関係もあります。手術を控えた患者さんには、かかりつけの歯科医院の先生のところでお口の中を必ずクリーニングして、疾患があれば手術前に治療してほしいと情報提供があります。入院後に、口腔内の細菌が病気を悪化させることは先生方もご存知なので、口腔内をきれいにすることの大切さ、重要性はわかっておられます。ただ今後、医科歯科連携が広がるためには、歯科衛生士さんの確保などを含めて、受け入れ体制を整えることを急ぐ必要があります。

    山田 衛生士さんの確保は、たしかに喫緊の課題です。国家試験に合格した有資格者が約30万人いるのに、実際に働いている人は約14万人という状況で、結婚退職したあと復職できる仕組みが確立されていない現状があります。国民皆歯科健診を実現していくためにも、歯科診療所に対する診療報酬の引き上げや働き場所の確保を含めて、歯科医療の体制づくりを進めていく必要があると思います。

    飯利 口の健康を守ることは、全身の健康に通ずるという話をしましたが、歯科医の立場から言わせていただくと、私は「生きることは食べること」だと思っています。そのためには、8020運動もそうですが、最後まで自分の歯で食べられることが何より重要なことです。味を感じるしあわせ、家族と食卓を楽しむことも健康長寿には不可欠です。そのためにも口腔ケアをしっかりして、全身の健康状態を保つことをぜひ、心がけていただきたいと思います。

    PROFILE
    山田 宏/飯利 邦洋

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