TOPICS
ISHIN No.112
多診療科連携で血液と免疫の難病に挑む!
INDEX
治療薬の開発が進む
血液の疾患は、赤血球、白血球、血小板などの異常によって、日常的なものから専門的な治療が必要な悪性腫瘍まで幅広く存在する。血液の腫瘍で代表的なものといえば、白血球の一種、リンパ球ががん化する悪性リンパ腫、免疫にかかわる形質細胞ががん化する多発性骨髄腫、骨髄で異常な白血球が無制限に増える白血病などが知られる。
一方、本来は体を守るはずの免疫が、誤って自分の体を攻撃してしまう病気が、自己免疫疾患だ。体全体の色々な臓器に支障をきたす自己免疫疾患は、免疫反応がどの臓器に現れるかによって様々な症状がある。
その中で、全身の血管や細胞同士をつなぐ組織に慢性的な炎症が起こる病気を総称して、膠原病と呼んでいる。膠原病は、手足の関節が腫れて変形する関節リウマチが最も患者数が多い。涙腺や唾液腺に症状が出て、目や口が激しく乾燥するシェーグレン病、皮膚、関節、腎臓など全身の様々な臓器に炎症が起こる全身性エリテマトーデス、皮膚や内臓の結合組織が硬くなってしまう強皮症、皮膚が荒れたり筋肉痛や筋力低下が起こる皮膚筋炎なども、膠原病に含まれる。
血液と免疫、膠原病などが専門の正木康史教授は、最近の治療についてこう述べる。
「血液の腫瘍や膠原病は、ひと昔前まで診断はついても、なかなか救命できないケースが多かったのです。ところが最近は新薬が次々と開発され、早期に診断や治療すれば、寛解といってかなり症状が良く、健康な人と変わりないぐらいに元気に過ごせるようになってきています」
とくに血液のがんといわれる白血病や悪性リンパ腫は、メカニズムの解明や治療薬の開発が進んでいることから、正木教授は「患者さんには、諦めずに前向きに治療すれば良くなると話せるようになった」と打ち明ける。
関節リウマチが劇的に改善
膠原病の分野でも、関節リウマチは生物学的製剤の出現によって大きく改善が見込めるようになってきた。
「自己免疫疾患は、主に免疫細胞から分泌される微量のタンパク質、サイトカインが関係しています。サイトカインは、細胞同士の情報伝達物質として働き、免疫反応の調整や炎症のコントロール、細胞の増殖などを指揮する役割を担っています。このサイトカインが過剰に働いて病気を引き起こすわけですが、疾患によって活躍するサイトカインはある程度決まっています。たとえば関節リウマチは、インターロイキン‒6とTNF‒αという炎症性サイトカインが悪さをしています。そこで、それらをブロックする抗体製剤が開発され、この生物学的製剤の登場で関節リウマチが劇的に改善したといわれています」
同様に、シェーグレン病においても、ひと昔前までは「根治薬はない」といわれ、対症療法が主体だった。しかし正木教授は「ようやく根治薬が出てきて、市販薬として使えるようになっており、数年ぐらいすれば一般的に使用できるところまできている」と予測する。
膠原病は、はっきりとした原因はわからないまでも「生活習慣など後天的な要素が関係していることが多い」とも指摘する。
「遺伝的な要素も多少、関係はしますがそれだけでは説明がつきません。むしろホルモン、紫外線、放射線、ウイルス感染、喫煙、加齢、薬物など、どちらかといえば後天的な要因が関係しているケースが多い。とくに関節リウマチの増悪要因で明らかなのは、喫煙と歯周病だといわれています。それゆえ重症化する前に、生活習慣を見直すことで改善できる余地もあるのです」
全身性エリテマトーデスのように日光を浴びると症状が悪化する場合は、できるだけ直射日光を避ける。指先の血管が痙攣して血流が悪くなり、指先が白くなる強皮症は、ケガや火傷をすると治りが悪くなったり、深爪をすると雑菌が入るので「生活習慣に気をつけることで、少なくとも悪化の妨げになる」のだ。シェーグレン病についても、「口の中を清潔にする、食事の都度、歯を磨くことが治療の第一歩」だと、正木教授は強調する。
北陸初、多診療科横断型のリウマチセンター
自己免疫疾患や膠原病は、免疫の反応が体のどの臓器に支障をきたすかによって、様々な診療科が治療にかかわる。たとえばシェーグレン病は、目や口が乾燥して炎症や雑菌が増えることから内科と眼科、歯科口腔科が連携して診療にあたる。
強皮症や皮膚筋炎は、内科と皮膚科、全身性エリトマトーデスのように腎臓に症状が現れる場合は、血液・リウマチ膠原病科と腎臓内科、肺などに問題が起きれば、同じく血液・リウマチ膠原病科と呼吸器内科というように、複数の診療科が連携して診療にあたる。
「金沢医科大学は、開学以来、血液内科と免疫・膠原病が同じ教室で、伝統的に一緒に研究してきました。血液と免疫・膠原病が同じ教室という大学は、全国でもおそらく稀ではないかと思います。血液の疾患や自己免疫疾患は、血液を含めて全身の諸臓器に病気が起きるので、私たちは1回の外来受診で、できるだけ複数の診療科を効率的に受診できるのが、より的確な診療につながると考えています。それゆえ、血液・リウマチ膠原病科が主導して各診療科とスムーズな連携に取り組めるのが、私たちの最大の強みともいえます」
正木教授のそんな思いが結実したのが、2025年8月1日に開設した金沢医科大学病院リウマチセンターだ。関節リウマチや膠原病、自己免疫疾患などの早期診断・早期治療を目的に、関連する複数の診療科が協力して診療にあたる専門拠点として開設された。北陸で初となる診療科横断型のセンターで、その最大の特徴は、各診療科が緊密に連携する診療体制にある。
血液・リウマチ膠原病科、整形外科、リハビリテーション医学科を軸に、腎臓内科、呼吸器内科、皮膚科、眼科、歯科口腔科など院内の約15科以上が連携し、診療にあたっている。
「患者さんは、1回の受診で多方面の専門診療を受けられるので、負担が軽減できて効率的に診療科を回れる利点があります。各診療科では、定期的にカンファレンスを行い、それぞれ専門家が意見を出し合い、適切な診断につながるように連携しています。もう一つの特徴は、地域連携です。能登のように専門医が少ない地域では診断が難しいので、大学病院で検査をして、日常の診療は能登で受けられるように地域の医療機関との病診連携を強化し、適切な診断・治療が実施できるようにしました。さらに専門医、看護師、理学・作業療法士、薬剤師など、リウマチや膠原病を専門とした教育や人材育成にも取り組める体制になっています」
原因不明の免疫疾患に挑む
自己免疫疾患は、全身の臓器に病気が起きることから、単独の診療科ではどうしても見落としが出てしまう。比較的新しいとされているIgG4関連疾患や、TAFRO症候群などは、「まず単独の診療科では成立しない」と、正木教授はその診断や見極めの難しさを語る。
IgG4関連疾患は、血液中の免疫グロブリンG4という抗体成分が上昇し、全身の様々な臓器が腫れたり、硬くなったりする原因不明の免疫疾患とされる。2001年に日本から発信・確立された新しい疾患で、ひとつの臓器だけでなく、複数の臓器が腫れる特徴がある。臓器にしこりができることから、がんと誤認されて手術で切除されたケースも過去には見られたそうだ。
2010年に報告されたTAFRO症候群も同じく新しい全身性の疾患だ。血小板が減少し、全身の浮腫み、腎機能障害、発熱、骨髄の線維化などを主症状とする原因不明の全身性炎症性疾患とされている。TAFROは、Thrombocytopenia(血小板減少症)、Anasarca(全身の浮腫)、Fever(発熱、全身の炎症)、Reticulin fibrosis / Renal dysfunction(骨髄の細網線維化、または腎機能障害)、Organomegaly(脾臓や肝臓の腫大、リンパ節の腫れ)の頭文字。
「比較的新しい疾患なので治療法の歴史も浅く、残念ながら保険が使える治療薬はまだありません。悪性リンパ腫など他のジャンルで使う抗がん剤や、免疫抑制剤など色々な薬が試されていて、それなりに有効例も出てきていますが、そもそもこの病気が腫瘍なのか、感染症なのか、それとも免疫の異常なのか、まだ根本的なことがわかっていないのが現状です」
センター機能が患者の命運を左右
血液内科の専門として正木教授が近年、力を注いできた悪性リンパ腫の治療でも、極めて稀な症例に出くわすことがある。それが「血管内リンパ腫」で、当初は高齢者が不明熱で多臓器不全の状態で診察したのがきっかけだった。
「悪性リンパ腫にも色々なタイプがあって、リンパ節が腫れるとか、リンパ節以外の様々な臓器が腫れる場合が多いのですが、この病気はどこにも腫れがないリンパ腫で、かつては病理解剖してやっと診断がついたのです。全身の毛細血管の中に腫瘍が広がって、どんどん悪化していきます。基本的には悪性リンパ腫なので診断がつけば治療は可能なのですが、診断がつかないと何をしてよいのかわからず後手に回ってしまいます。この病気も多診療科が連携して迅速に対応できるかどうか、院内の体制が重要だと思います」
病態解明や迅速な検査、診断、治療体制が患者の命運を左右する。まさに、リウマチセンターの多診療科連携による包括的診療体制が、大きな強みだといえよう。
「発見のための検査や診断はもちろん、治療法や病気の理解を進めていくためにも地域との連携が重要です。医療者向けには、地域連携の会をつくり年間通して定期的に顔の見える関係を築きながら、啓蒙していくことが大事になります。患者さん向けには、市民公開講座を定期的に開いて、自己免疫疾患や膠原病などの病気について知っていただくようにしています」
リウマチセンターを拠点に、血液の悪性腫瘍や自己免疫疾患などの難病に立ち向かう。正木教授の挑戦は、ますます拍車が掛かっている。
HISTORY
私たちは、あらゆる医療活動の
サポートをします
医心へのご相談やご質問がありましたら
お気軽にお問い合わせください。