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ISHIN No.106
3 年間で13 人の新教授
新しい「風」が躍動

INDEX
判断力とスピード感
―病院長に就任される直前まで医学部長をされていました。附属病院を統括する立場に変わられて、意識や心境などにどのような違いがありますか?
医学部長時代は、どちらかといえばいかに学生が育っているか、教員や研究者が論文をたくさん書いて、研究費が多く調達できているかといったところに重点を置いていました。その結果は、医師国家試験の合格率にも関係してきます。昨年度(2024年)の合格率は幸いにも100%で全国1位でした。要するに1年の成果、もしくは6年経ってみてどうかが、評価の対象になります。
対して病院長になると、当然のことですが、病院全体のことを考え、起きているさまざまな問題に対してどういう手を打てばいいか、打たなければどうなるかが問われます。経営判断のスピードも全然違います。たとえば毎月の収支があっという間に出てきます。今月、来月の収支をどうすればいいか、非常に短期間ではっきりとわかります。結果が数値として現れるので、気がぬけないですね。
―素早い対応や判断力など、スピード感が求められるわけですね?
そう思います。とりわけ病院の収益にかかわる問題は避けては通れません。医学部長の時に今年は1月、2月、3月は病棟が混んでいて、新規の入院患者さんを受け入れたくても受け入れられないという話を耳にしました。私は、教授(耳鼻咽喉科)になった時に、「患者さんはできるだけ断らないようにしよう」と自らに言い聞かせ、地域の病院や開業医さんからご紹介いただいた患者さんを断ることなく、受け入れてきました。
それから20数年経ちますが、耳鼻咽喉科では、いまではがんなどの難しい疾患の患者さんは大学病院へという流れになっています。そういうこともあって、私が病院長になった時に、改めてその思いを各教授の先生方に伝え、お願いをしました。
「大学病院は高度急性期病院で本来、難しい疾患を扱う病院ですが、ご紹介をいただいた患者さんは、いろいろご都合はあると思いますが、断らないで欲しい」と。
現場の医師や看護師は、院内の調整や入院患者さん、ご家族に普段から事情を伝えているとは思います。ただ、どこまで浸透しているかまではなかなかわかりません。入院にあたって「この疾患は大体1週間から10日くらいです」とお話をし、長引く場合は外部の病院に行っていただくように調整する。そのように患者さんやご家族にお約束をし、ご理解と納得をいただく。これを徹底することで、かなり改善はされるのではないかと思います。
ロボット麻酔システムを開発
―当然、地域の病院や開業医さんとの連携がきちんとできていることが前提ですね?
もちろんです。日頃から信頼関係がしっかりできていないと、急な要請があってもなかなかうまく対応できるものではありません。病院長に就任して、私が思ったことの一つは、地域との連携、関係をより「密」にすることでした。地域の先生方と、普段から“顔の見える関係”を構築しておくことが大切だと思ったのです。
関連病院や地域の病院、医師会、クリニックなど、県内の主だった病院の先生方とはほとんど顔見知りですし、医学部長のときには学生の指導などをお願いした病院もあります。「急な患者さんがあったときはまたお願いします」と気軽に声を掛け合い、普段から親交や関係を深めておくことで、いざというとき、困ったときに相談しやすいのです。
結果として、大学病院から「患者さんを引き受けて欲しい」と急な依頼をしても受けていただけますし、スムーズに回るようになってきています。大学病院といえども、いまや地域との密な関係なくして生き残っていくのは難しい時代です。
私は鯖江市の出身で、福井大学医学部(旧・福井医科大学)の第一期生でもあります。地元への思いは人並み以上だと自負しています。地域の皆さんの命と健康を守るために、精一杯役割を果たしたい。地域の先生方のいろんなニーズやご意見は全て受け入れるつもりで、これからも関係づくりに力を尽くしたいと思っています。
―断らない医療を実践するにあたって、どのようなことから優先的に取り組まれたのですか?
手術件数を増やしました。大学病院である以上、高度な手術を数多く実践していくことは使命だと思っています。その一環として、イブニング手術枠を設けました。今年の4月から、夕方4時以降夜8時までに終わる手術を週2回、行うようにしています。
手術を増やすにあたっては、麻酔科医の存在が重要になります。麻酔科医が不足していたこともあってこれまでなかなか実現できなかったのですが、当院では麻酔科の教授に協力いただき「ロボット麻酔システム」を開発し、それがうまく稼働しはじめています。
ロボット麻酔システムは、全身麻酔で手術を受ける患者 さんへの麻酔投与を自動調節するシステムで、2017年からほぼ8年がかりで開発したものです。 近い将来、ロボット麻酔システムの導入により、手術を受ける患者さんの待機時間の短縮や、研修医が手術に参加する際の安全性確保などの課題の解消が期待されます。
イブニング手術枠は、目下のところ泌尿器科と産婦人科、耳鼻咽喉科など限られた診療科で行っています。働き方改革との関係もあって、担当医は午後から出てきて、手術を終えると翌日は休むというように、シフト制にしています。
そのほか、脊椎・脊髄外科領域で、手術室にコンピュータ・ナビゲーションシステムや術中脊髄モニタリングを導入しました。脊椎の手術中に、ピンなどを埋め込む際にCT画像などが術中にモニタリングできるシステムで、より正確で安全な手術ができるようになりました。脳や脳神経系の手術においても、機能を温存できる神経系の手術が進んでいて、ロボット手術含めて今後、当院の得意分野にしていきたいと思っています。
内科を「臓器別」で再編成
―少子化高齢化や人口減少が急速に進み、国の地域医療構想による病院の統廃合や機能分化なども取り沙汰されています。医療のあり方が変わりつつあるなかで、どのような役割を果たしていこうとお考えですか?
病院の統廃合や機能分化については、遅かれ早かれそういう方向に向かわざるを得ないと思います。ただ現状は、大学病院として「やれることは全て取り組む」方針でさまざまな改革を進めています。
医療的には、県内唯一の特定機能病院であり、高度医療の最後の砦として役割を果たすべく組織や体制を見直しました。たとえば、高度急性期病院として臓器・疾患機能別病棟センターを継続し、診療科の枠を超えた集学的診療体制を強化しました。
それから福井県脳卒中・心臓病等総合支援センターの設置、がんゲノム医療連携病院、小児がん連携拠点病院、福井県アレルギー疾患医療拠点病院、福井県摂食障がい支援拠点病院のそれぞれ指定を受けており、その強みを生かしていきたいと考えています。
少子化対策につながればとの思いから、高度生殖医療センターを設置し、不妊手術や不妊治療にも積極的に取り組んでいます。
一方で、医療の効率化のためのDX化や、医師や看護師の働き方改革、診療報酬をあげるためのDPCへの取り組みも進めています。
―診療科の中で、内科を第一、第二、第三といったナンバー内科から臓器別に再編成されたとお聞きしています。なぜ再編成されたのですか?
いまさら臓器別?と思われる人もいるかもしれません。背景には、若い人を育てていこうという医学部の方針があります。それに伴い、私が医学部長だった頃を含めて、ここ3年間で臨床系の教授が13人変わります。
これまで第一内科は血液・腫瘍と感染症・膠原病、第二内科は脳神経と消化器、第三内科は呼吸器と内分泌・代謝というように、2つぐらいの臓器や診療科を取り込んできました。一緒になることで一定の役割やメリットはありますが、40年近く経過して診療科によってはなかなか人が集まりにくい面もありました。それで当時の学長とも相談し、ナンバー内科を臓器別に戻して新しい教授を募集しましょうと、思い切って舵を切ったのです。
いま、その成果が出てきていると改めて感じています。先生方が頑張られて、初期研修医として学生を勧誘するために働きかけるとか、実際に医局の門を叩く若い人たちも増えてきています。体制が変わったことで、新しい風が吹いている。そういう実感があります。
「医工連携」で未来を切り開く
―今後、どのようなビジョンを描いておられるのか、最後にお聞かせください。
やはり若い人を育てることだと思っています。医療業界も高齢化が進んでいます。大学病院といえども教授だけではなく、准教授や医員を含めて年齢が上がってきています。次の時代を担う若い人が育っていかないと、新たなものは生まれてきません。
少なくともいま30代、40代の先生方には、これからの大学病院を支えていってほしい。そのために若い人たちの活躍を、いろんな角度からサポートしたいと思っています。
当院には「アンダーフォーティクラブ」という組織があります。各診療科にいる40歳未満で、診療医もしくは大学院を卒業し、専門の研究に熱心な先生方が集まってできた組織です。その40歳未満の先生方がいま20代、30代の若い先生方の相談に乗ったり、研究サポートなどをしています。
そうした活動に対して、病院から研究費の一部を補助するなどの支援をします。30代の先生が、たとえばロボット手術の技術を身につけるために先輩の先生方に教えていただきながら、仕事の幅を広げる。あるいはその技術を身につけるために研修に行くことがあるかもしれません。そういう費用の一部をサポートできればと思っています。
最近は、研究費や寄附講座など外部からの資金調達が難しくなってきています。診療報酬のアップもなかなか見込めない中で、活動資金をいかに調達するかも重要です。
研究のシーズを発見して、論文をたくさん書いて、新しいものが生まれれば、企業の目にも止まりやすくなります。そこから「医工連携」が生まれ、製品につながれば資金が投入される可能性も広がります。当院の自動麻酔システムは、まさにその典型です。
医師主導による治験、心臓や血圧の健康な状態を保つ機器、快適な眠りをサポートする研究など、どんなものでもいい。独自の研究データを重ねながら、メーカーとコネクションをつくって新しい製品につなげる。そうした若い人たちの活躍の場を広げる機会を、できるだけ多くつくってあげたいと思っています。
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